野菜生活

徒然と

僕らは今の中で

これでも僕も立派な社会人で、今の会社に入社して2年半が経過している。
2年半という歳月はなかなかのもので、着慣れない制服に包まれた女子中学生がガッツリ着こなすようになって、なんならスカートとかをハサミで切って魔改造していてもおかしくないくらいの歳月だ。
もっと言ってしまえば、卒業を半年前に控えて「もうすぐ卒業だね…」「あぁ、そうだね。」「高志は本当に私と離れ離れになってA高校に行くの?」「どうしても将来サバンナの動物の生態を研究したいからね。」「そっか、高志の夢、応援しなきゃね。」「大丈夫、家は出ないからいつでも会えるよ。」「浮気とか…しないでね…?」「ばーか。俺には芳江以外いないよ。」「高志…」
ズッコンバッコン!!
とかやってるカップルがそこら中にいるような歳月だ。くそっ、何がサバンナの生態だ!!

自分でも驚くくらい脱線してしまったが、そんな2年半の歳月を今の会社で過ごしてきた今ではベンチャー企業だからというのもあるが、支社内で二番目の古株になってしまった。
入社当初営業のノウハウを教えてくれた係長は今や他の支社で課長をやっているし、僕をラーメンに連れて行ってくれた課長も今や後輩とキャバクラに繰り出す僕らを尻目に新たな新人をラーメンに連れて行くようになった。
甘えていられる時間は終わり行動一つ一つに責任を伴うようになったのだ。
2年半という歳月にとてつもない重みを感じていたとき、僕に転機が訪れた。
新人が入ることになり、その新人の教育担当に僕が抜擢されたのだ。
ついにこの時が来たか と僕の心は色めき立った。
仕事柄原付以上の免許が必須な職場なのだが、原付の免許に落ちたというファンキーな前情報以外はない状態で少しでも円滑なコミュニケーションを取ろうと部下との接し方的な本も買った。少しでも共通の話題を作ろうと普段はアニソンしか聞かないのに星野源のCDをTSUTAYAで借りた。
まだ見ぬ原付免許に落ちた新人を受け入れる態勢は万全だ。

そしてついにやってきた新人配属初日。
恙無く朝礼での自己紹介も済み、ついに業務を教える段階となった。
舐められてはいけないという思いと、気さくな先輩を演じたいという思いがごちゃ混ぜになった僕は情熱とほんの少しのクールさを言葉に込めつつ語った。

「ここに線を引くといいんだけど、毎日色を変えると尚良しだ。」
「なるほど。」
「大体この曜日はこの色って決めてる人が多くて、俺の場合は土曜日がオレンジで日曜日がピンクだ。」
「なるほど。」
「オレンジはほのかちゃん、ピンクはにこにーで覚えるといい。これはラブライブというアニメのキャラなんだ。」

と後輩がラブライブを見てたら絶対仲良くなれるし、見てなくても今後の会話のフックになるような絶妙な感じで心の距離を詰めにかかった。
聡明な読者の皆さんならこの後新人が犬のうんこを踏んだような顔で愛想笑いをされたところまで想像出来たと思うが問題はここからで、その日の夕方に課長より教育係解任の命が降りてきた。青天の霹靂である。
何も知らない新人にラブライブの話をしたのは完全に僕の落ち度だが、その後は普通に業務についてみっちり教え込んでいた。
課長の忠実な従僕として各支社に名前を轟かせている僕もこの時ばかりは「なんで新人教育係を外されたんですか」と課長に噛み付いた。
課長は前日焼肉を食べた時の屁を電車内でマックスでかましてしまった時の申し訳なさそうな顔で言った。
「事務の子(アラサーのブス)からアニメの話をしててまともに教育してないって密告があったんだ」

色々言いたいことはあるが、僕の昇進はしばらく無さそうだ。