野菜生活

徒然と

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「人は外見じゃなくて中身」とか言う人のことをいまひとつ信じる事が出来ない。
得意料理を聞かれた時に「肉じゃがです☆」とかほざく女並みに信用出来ない。
外見じゃなく中身という発言にしたって、肉じゃがにしたって根底にあるのは男ウケだ。
人は少しでも自分を良く見せようとする生き物である。僕だってその例外に漏れず、キャバクラにフリーで入って可愛い子が付いたら人生ベストスリーに入るくらいのイケメンボイスで「好きなもの飲んでいいよ」と格好をつける。
ちなみにたまたまその日は3人全て可愛い子が付き、おまけに「そんなジョッキ誰が使うの?」ってレベルのラージサイズ、むしろヒュージサイズでキティとか言うんですかね?オシャンティーなカクテルを浴びるように飲んだキャバ嬢がいたおかげでちょっと高いお肉が食べれる額をものの一時間で払う羽目になった。
もっと言えば3人全てのキャバ嬢にLINEを聞いたところ「次お店に来てくれたらね♪」と言われて泣いた。帰りの電車で膝を抱えて泣いた。
キャバクラの下り、びっくりするほど関係なかった。

そんなこんなで「人間中身じゃなくて顔」説を兼ねてより提唱しているが、今僕の職場にはびっくりするくらい救いのないブスがいる。
美人は三日で慣れ、ブスは三日で慣れる という言葉を聞いた事があると思うが、今の僕がいる支社に配属されてかれこれ一年と少し経った今でもブスだなぁとしんみり思うくらいのブスである。
あんまりブスブス書くとやたら意識の高い人から「人の外見の悪口を書くなんてサイテー!!」とかパッシングを受けることがある。
現に僕も職場で救いのないブスと言うほどではないけど、まぁ普通にブスかなって感じのブスに「電車で捕り物を見た。痴漢どうこうと騒いでたけど、あれは冤罪だ。何故なら女が靴底の精霊みたいなブスだったから。」と面白おかしくコメディックに話したら
ブスな顔を更に歪ませて「今すぐ帰って。」と真顔で言われた経験がある。

考えて見てほしい。ブスというのは結果だ。
ドラゴンボールという漫画をご存知だろうか。
ドラゴンボールでは主人公の悟空が強敵と対峙したとき「すげえ奴だ」的なことを言うのだがそれと一緒だ。
そこには称賛も侮辱もない。感想だけだ。
それと同様でブスだ という発言には結果に対しての感想しかない。
春先に吹き狂う風を見て「すげえ風だ」と言うようなニュアンスでの発言なのだ。

まあそんなこんなで救いのないブスが入社一年足らずで本社で経理課になるための昇進試験を受けるとか大きめのリンゴなら入るんじゃないかとちょっぴり心配になるくらい鼻の穴を広げて言い出した。
僕の会社は昇進したいときは上層部に昇進への熱い想いを伝えてオッケーが出れば晴れて昇進というなんとも脳筋バンザイなシステム、有り体に言ってしまえば入社してから今まで会社の売り上げにどれだけ貢献してきたか、昇進したらどのように会社の売り上げに貢献するかをプレゼンするわけだ。
そんなブスの昇進試験への出馬表明を僕ら男性陣は丹精込めて育てた農作物が大型台風によって一晩でダメにされた農家の方々のような表情で眺めるしかなかった。

その日からブスの昇進試験の資料作りが始まった。ブスの指が農作物を襲うイナゴだったら一網打尽で米とか麦とかをダメにするんじゃないかって勢いでパワーポイントに文字を打ち込んでいた。
救いのないブスの頑張りに水をさすのは人間的にダメだけど、流石に業務中に資料作りをするのはちょっとやりすぎなんじゃないかな。オンオフはしっかり分けた方がいいんじゃないかなってレベルでの頑張りだった。

それから一週間の時が経ち、遂にブスの一次プレゼンの日がやってきた。
一次プレゼンは支社内でプレゼンをし、半数以上の同意が得られれば晴れて上層部の前でプレゼンが出来るという謂わば登竜門のようなイベントだ。
流石のブスも気心知れた支社の面々の前でのプレゼンは緊張するようで、ブサイクな顔が更にブサイクになって生理痛に苦しむヤギみたいな顔になってた。ヤギに生理痛あるか知らんけど。

プレゼンの内容はというと、経理課への異動と主任への昇進志願がタイトルなのにも関わらず、経理課へ異動を志願する理由が1ミリたりとも語られず、ただひたすら社長への愛を語るというなかなかファンタスティックな仕上がりになっていた。「若い人材が会社を盛り上げないでどうするんですかっ!」とパッショネスに鼻の穴を震わせながら興奮気味に言い放つブスはどう好意的に解釈してもブスだった。

そんなプレゼンに対して支社のメンバー各々が意見を上げているのだが、相当のパッシングで
「社長への愛が重い」
「社長と同じ誕生日とかどうでもいい」
「経理志願の動機が全く見えない」
「総務じゃダメなの?」
「主任じゃなきゃいけないの?」
「経理の経験も資格もないのに情熱だけで全社員の給料を管理できるとはおもえない」
「ここ一年の功績は?」
「他の人の質問や指摘に対して即答出来ないのを見ると本当に異動や昇進がしたいとは思えない」

などなどちょっとメンタルが弱い人だったら、出社拒否になって暗い部屋で余生を送る羽目になってもおかしくないレベルのパッシングを受けていた。
とは言っても僕らも頑張るブスを袖にするほど非道ではないので、指摘された点をしっかり直せば二次試験に行ってもいい という結論に至った。

そこからまた救いのないブスの奮闘が始まる。休憩中はツムツムをやっていた救いのないブスがツムツムの増え続けるハートを放棄して、納豆巻きを食べ事務所に納豆の匂いを充満させながらプレゼン資料を作るようになったのだ。
ちなみに相変わらず仕事中も資料作りしてた。

それから一週間、救いのないブスの汗とか涙とかの汁と納豆の結晶とも言えるプレゼン資料を片手にブスは本社にプレゼンをしに旅立って行った。
これから戦争に出陣して敵の武将を2、3人仕留めてきます みたいな勇ましい顔をして事務所を出て行くブスは10人が10人ブスだと思うであろうブスだった。
それから数時間後、敵国の武将を2、3人仕留めてきたような顔で帰ってきたブスは聞いてもいないのに「90%通りました」と僕が神だったらブスに裁きの雷を落とすレベルでのドヤ顔で言ってきた。
合否は2、3日後にわかるらしい。それからの2、3日はブスは気が気じゃなかったらしく、全くと言っていいほど仕事に手が付いてなかった。いい加減仕事しようよ。

それから3日が過ぎ、4日が過ぎても本社から合否連絡が来ず、僕らの間ではサイレント不合格が囁かれ始めた頃、遂に本社なら連絡が来た。
結果は不合格。
なんでも本社経理課志願希望の人は救いのないブス以外にもいたらしく、その人が経理課の椅子を勝ち取ったようだった。

もちろんプレゼンのクオリティ云々もあるんだろうが、僕は口にこそ出さなかったがこう思った。
「もう1人の方がはるかに可愛かったんだろうなぁ」と。

やっぱり人間は中身じゃない。外見だ。